ロボットスーツ(パワーアシストスーツ)

Posted by:Celsia23 LLC Posted on:7月 20,2018

 

特許分析:

「ロボットスーツ(パワーアシストスーツ)」

1.はじめに

大和ハウス工業は、2018年4月10日より、作業員が腰に装着し、重い物を持ち上げるときに、腰にかかる負担を軽減する、CYBERDYNE社(茨城県つくば市)が開発・製造するロボットスーツ「HAL®腰タイプ作業支援用」(「HAL®」はサイバーダイン社の登録商標)を、全国9工場に計30台導入すると発表しました。

 

リンク運営元:大和ハウス工業株式会社 2018/4/10

出典:■生産現場の職場環境支援 ロボットスーツ「HAL®腰タイプ作業支援用」を全工場に導入

 

ロボットスーツは、一般に、パワーアシストスーツと呼ばれ、身体に装着し、電動アクチュエータ(駆動装置)や人工筋肉などの動力を用いて人間の機能を拡張・補助する装置です。  介護、工場、物流、農作業など、あらゆる作業の現場で身体の負担を大幅に軽減する補助装置として期待されています。

 

 

2.簡易特許調査

そこで、表1に示すパワーアシストスーツに関連するIPC(国際特許分類)を調査対象として母集団を作成し、「身体負担軽減」を発明の課題としている関連特許の動向を探ってみました。ただし、身体訓練、運動や歩行のためのパワーアシストスーツに関連する公報は対象外としました。その結果、123件の特許が抽出されました。

表 1 使用IPC

 

まずは、抽出された123件の特許につき、上位出願人を見てみましょう(図1)。

農機メーカーのクボタ社がトップで、12件出願されています。以下、北海道大学、大分大学、ゴム・プラスチックの加工等にしている旭ゴム化工社及び航空機フライトコントロールアクチュエータや産業用ロボット等のトップメーカーであるナブテスコ社(各5件)と続きます。

 

図 1 主要出願人一覧

 

 

当該分野は、大学等の研究機関やスマートサポート社、今回のCYBERDYNE社等の大学発ベンチャー企業の出願が多く見られます。

おそらく、大学等の研究機関は企業との共同開発を行っていると推測されます。

 

そこで、共同出願関係を見ると(図2)、実際に、スマートサポート社と北海道大学、ナブテスコ社と中央大学、旭ゴム化工社と大分大学など、多くの企業が研究機関との共同開発を行っていることが見て取れます。

図 2 共同出願人ツリー

 

 

負担軽減を身体部で見ると、腕アシスト装置48件、腰アシスト装置65件、腕及び腰アシスト装置10件で、代表的な図面を記載した出願年次推移(図3図4及び図5)から技術開発動向を見てみました。

 

※図3、4については別ページにて出願年次推移を紹介。

図3他はこちら☞代表的な図面を記載した出願年次推移「図3」

図4他はこちら☞代表的な図面を記載した出願年次推移「図4」

 

図5

 

 

ここで、薄い灰色は権利消滅、薄いオレンジ色は公開段階及び薄い緑色は登録特許(図では公開番号を記載)を表しています。

 

腕アシスト装置については、90年代中ごろから開発が進み、2012年頃から出願件数が増加傾向となり、2015年頃に出願のピークを迎えています。それ以降もある程度の件数が出願されており、引き続き開発が進められていることが推察されます。

 

上腕を下方から支える構造のものが多く見受けられます。

開発当初は、上腕の屈曲動作が制限された装置であったものが、屈曲動作の自由度を上げた装置の開発へと進んでいるようです。

駆動手段としては、モーター、アクチュエータを使用しないラチェット方式及び装置の軽量化を図るために弾性体を採用していることが窺えます。

 

腰アシスト装置については、80年代後半に最初の出願が見られ、かなり古くから開発が開始されていることが見て取れます。

出願件数は少ないものの、2000年初頭から継続的に開発されており、腕アシスト装置の開発と同様に、2014、5年頃に出願のピークを迎えます。

開発当初は、ゴム等の弾性体を使用したベルト状等の簡単な構造の腰部負担軽減具であったものが、背面側で上下方向に配置された空気圧式アクチュエータやバネ等の弾性体を駆動手段とした装置の開発へと進化していることが見て取れます。

 

 

最後に、上位出願人の注力技術を見てみましょう。

 

●上位出願人トップのクボタ社の注力技術は、下記に示す姿勢保持具(図6)やアシストスーツ(図7)が挙げられます。

姿勢保持具(特登録6021505(特開2014-033778)など)は、果樹園や建物内での腕を上げた状態での作業において、作業者の上腕部に掛かる負荷を適切に軽減できる装置で、パナソニックとの共同開発による駆動手段として、アクチュエータを使用しないラチェット方式を採用。

『ラクベスト』(ARM-1D)として、販売が開始されています。

リンク運営元:株式会社クボタ

出典:クボタアシストスーツ ARM-1Ð ラクベスト

 

図6

 

 

アシストスーツ(特開2018-002336など)は、作業者が持ち上げ対象物を持ち上げる際に、作業者が腕を上げ下げする動作や作業者が立ち上がる動作をアシストする。

作業者が立ち上がる際のウインチワイヤの弛みに起因する腕への負担が軽減される。

『ウインチ型パワーアシストスーツ』(WIN-1)として、販売されています 。

リンク運営元:株式会社クボタ

出典:クボタウインチ型パワーアシストスーツWIN-1

ただし、いずれの装置も100万円と、高額です。

 

図7

 

 

●北海道大学 (田中孝之研究室)は、幅広く共同開発を行っており、特に、北海道大学発ベンチャーのスマートサポート(札幌市)との共同開発による腰部筋力補助具(特登録5505631(特開2011-229704)など)に注力しています。

該腰部筋力補助具は、介護者が前屈すると両肩部から両膝部に掛けたベルトの引張力と腰部の周りの締め付け力が自動的に増大し、前屈しない状態では双方の力が自動的に解除される構成になっている。

現在、スマートスーツとして、試験販売されています。

リンク運営元:株式会社スマートサポート

出典:スマートスーツ はたらくカラダにいたわりプラス

 

図8

 

 

●旭ゴム化工社は、大分大学との共同開発により、前屈姿勢を頻繁にとる介護者や農作業者や荷役作業者、あるいは新生児沐浴作業者等が背部に装着する腰部負担軽減具改良発明(特登録4979139(特開2010-029480))に注力している。

肢サポータにその一端をそれぞれ連結した伸縮自在な左右一対の弾力性連結具(ゴムバンド)の伸縮により、腰の負担を減らす仕組みを採用している。旭ゴム化工社から「B―MS(ビームス)」として、重さ約1キロ、価格2万5000円程度で試験販売されています。

リンク運営元:旭ゴム化工株式会社

出典:「PDFファイル」新分野開拓はリスク分散! ~公的支援を活用した製品開発~

 


図9

 

 

●ナブテスコ社は、腕アシスト装置に関して香川大学と、腰アシスト装置に関して中央大学との共同開発によるアクチュエータ方式を採用した筋力補助装置の開発に注力しています。

香川大学とは、粉塵等の多い環境下でも使用され得るように構成された筋力補助装置(特開2017-226052など)、中央大学とは、空気等の流体注入型アクチュエータ(いわゆる人工筋肉型アクチュエータ)等により制御さる筋力補助装置(特開2016-159113など)などの開発がメインである。

図10

 

 

●サイバーダイン(CYBERDYNE)社は、筑波大学発ベンチャー企業で、筑波大学と共同で、装着者の動きに応じた生体信号を検出する生体信号検出センサと、生体信号検出センサから出力された生体信号に基づいて駆動機構を制御する制御部とを備えた装着式動作補助装置(特登録5979703(特開2013-173190)など)の開発に注力している。

大和ハウス工業が採用したロボットスーツ「HAL®腰タイプ作業支援用」は、制御手段に異常が発生し、動力が喪失した場合に即座にブレーキを駆動し、装着者へ印加される突発的な負荷を低減するとともに、通常使用における姿勢の保持を可能にするブレーキ装置(特開2016-067899)に基づいていると思われます。

図11

 

 

●前田精密製作所は、空気を内包した気密性を有する軟質弾性材料により構成された袋状の緩衝構造物を装着する人体装着型疲労軽減装置(特開2017-006219など)等の開発に注力している。

三重大学は、ジャパンマリンユナイテッド社との共同で、腕の動きの自由度を高くしながら、腕を下側から支持することができる作業支援装置(特登録6145866(特開2014-172129)など)の開発に注力している。

上下方向の回転のうち一方向の回転を許容し他方向の回転を禁止するとともに、許容する回転方向と禁止する回転方向とが切替可能な機能を有するラチェット方式のアーム保持部を有する。

モリタホールディングスは、山崎信寿(慶応義塾大学名誉教授)との共同で、前屈姿勢維持に必要な筋張力の一部を背面に配置した弾性部材張力で代用する腰部負担軽減具(特開2016-083254他)等の開発に注力している。

腰部サポートウェア『rakunie(ラクニエ)』として、販売されています。

リンク運営元:株式会社モリタホールディングス

出典:腰部サポートウェア「rakunie/ラクニエ」

図12

 

更に、山崎信寿(慶応義塾大学名誉教授)やグンゼとの共同で、着るだけで腰の負担が軽くなる女性のための腰サポートインナー『calena(カレナ)』を発売している。

出典:2014年12月26日(金) 13時45分  消防車のモリタがグンゼと連携、女性の腰を守るサポートインナー「カレナ」発売

 

関連特許として、「腰部負担軽減装具」の特登録5687074(特開2012-143372)が挙げられます。

当該腰部負担軽減装具は、図の左に示すようにベルト状の装具で、腰部ベルトと膝部ベルト間を連結する下部弾性ベルトと腰部ベルトと一対の肩部ベルト間を交差するように連結する上部弾性ベルトを有し、前傾姿勢をとった場合に、両弾性ベルトが伸張し、その反力によって、臀部から大腿部背面に掛かる筋張力や背筋に掛かる筋張力が補助されるので腰部や背筋部に掛かる負荷が軽減される。

また、腰を曲げないときは、弾性生地は緩んでいるため、窮屈感がない。

図13

 

 

その他、東京理科大学発ベンチャーであるイノフィスは、内部にガスが封入される密閉空間を有するナイロンメッシュとゴムチューブからなる人工筋肉を有し、人工筋肉の収縮させることで、重量物を持ち上げる際における使用者の腰部の負荷を低減することができる人体サポート装置(特開2017-093505)等の開発に注力している。

すでに、腰補助用『マッスルスーツ ® 』として販売されている。

リンク運営元:株式会社イノフィス(東京理科大学発ベンチャー) 

出典:マッスルスーツとは?

図14

 

 

3.まとめ

介護、物流、農業、建設業界等における重労働を様々な動力によって軽減するパワーアシストスーツ(ロボットスーツ)に限定して、特許調査を実施しました。

興味あることに、多数の大学等の研究機関が関与し、企業と共同開発していることがわかりました。

少子高齢化が進む我が国にとって、減少する労働力、労働力の高齢化や女性の職域拡大に対するアシスト装置による補完の重要性に鑑み、開発企業による製品化が進められています。

介護ロボット等導入支援特別事業により作業現場への導入支援が実施されました。

しかし、使い勝手の悪さ等が指摘され

リンク運営元:介護ロボットONLINE

出典:作成日2018/01/24 更新日2018/05/28 パワーアシストスーツ市場規模が1.4倍に!でも本当に使えるの?

導入が進んでいないのが現状です。

我が国の少子高齢化による労働力人口の減少の対応は待ったなしです。

導入支援事業の充実を図ると共に、使用者側の操作性や使用効果等を検証し、開発者サイトへ還元し、より一層の改良を加速させ、各業界に最適なパワーアシストスーツの開発が望まれます。


Celsia23 LLC

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